「これあげますよって

「これあげますよって。まだ綺麗やから着れると思うんやけど。うちはもうこないな可愛らしいのは着れへんしなぁ、葛籠の肥やしにするのも忍びないし」

まさはそう言うと未開封の葛籠をどんどん開け、若い頃に着ていた鮮やかな物だったり、可愛らしいものだったりと言った着物や浴衣を取り出していった。そしてそれらを全て桜花に譲るという。

「こ、こんなに…良いんですか」

「へえ。いつも家のこと手伝ってもろて、頭髮稀疏 ほんまに感謝しとるんよ。いつか桜花はんに好いた殿方が現れたら、こっそり着たらええ」

その言葉に桜花ははにかんだ。その様子を見たまさは桜花の顔をじっと覗き込む。

「まさか、桜花はん…。好いた殿方がおるん?」

「え、や、その…」

みるみるうちに桜花の頬と耳が赤くなっていった。

それを見たまさは満面の笑みを浮かべる。

「洗濯…お洗濯してきます!」

桜花は先程の帷子を担いでは逃げるように縁側へ向かった。草履を引っ掛け、物干し竿に次々と干していく。

「逃げへんでもええやんね。でも良かったなぁ…」

女にとって一番綺麗な時期をこのような場所で過ごさせていることに、まさは気の毒に思っていた。

しかし、誰かは分からないが好いた殿方が出来たのなら話は別である。

「桜花はん、それ干し終わったらこれ全部部屋に持ってってやぁ」

まさは桜花にあげようと思ったものを全て葛籠に詰めた。

桜花は貰った葛籠を二階の自室へ運ぶ。

この浴衣を着て祇園祭に行こうと桜花は口元を緩めた。

しかし、男として通っているこの場所から女の格好は出来ないということに気付く。

一階へ降りながら、どうしようかと頭を捻ったがどうにも思い付かなかった。竹箒を手にし、表を掃く。

「やあ、桜花さん。精が出ますね」

そこへ沖田がヒラヒラと手を振り、やってきた。

「こんにちは。沖田先生。何処かへ行かれるんですか」

桜花の問いに沖田は思案顔になった。変なことを聞いただろうかと桜花は首を傾げる。

「ええ。非番だったので、にでも行こうと思って」

「桜花さんもいかがですか。甘い物お好きでしょう」

桜花は甘い物と聞いて自然と表情が明るくなる。それを見た沖田はその分かりやすさに口元を緩めた。

「決まりですね。貴方は表情がよく変わって面白い。まるで百面相だ」

沖田はくすくすと笑いながらそう言い、桜花の手から竹箒を取り上げ、門に立てかけると歩き出す。

「百面相って…」

それほど表情に出していたつもりは無かった。気恥ずかしさを感じながら、沖田の後を追う。

二人は河原町四条にある茶屋へやってきた。

沖田は手際よく二人分の茶と団子を注文する。

茶屋はそれほど繁盛しておらず、二人の他に男性の客が一人いただけだった。

「桜花さん、すみません。少し知人が居たので話して来てもよろしいでしょうか。お団子は食べていて下さい」

「大丈夫ですよ。私のことはお気になさらず」

沖田はすぐ戻りますというと、もう一人の客の横に向かう。

桜花は届けられた団子を口に運びながら、それを横目で見た。

沖田と男はさほど親密そうな様子ではない。それどころさ真剣さすら感じた。偶然出会った友人ならば、もう少し再会を喜ぶものではないか。

二人は斜め向かいにある一つの商家を見ていた。

桜花はそれに視線を移す。そこには「桝屋」という暖簾があった。

仕事の話しなのだろうと桜花は視線を空に移す。や」

その客の正体は新撰組の監察方として活動中の山崎丞である。

監察方は命を受けてからこの

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